私はもともと奈良県で訪問看護の仕事をしていました。最初は目の前の利用者さんの生活や暮らしが自立するお手伝いをすることのみにやりがいを感じていました。
訪問するたびに、その方の心身機能の評価(アセスメント)を行い、生活の中での課題に対し、動作方法や生活環境の提案を行い、その方の好きだったこと、大切にしていたことを継続、再開できるような提案を行う日々でした。
バスに乗ってお寺にお参りに行くというのを日々の生きがいにされていた元僧侶の利用者Aさんがいました。病気の兼ね合いでなかなか足が出にくく、押し車を使用しバス停に向かったときに、バスの運転手から「そんな大きな荷物持って、はよ乗ってくれるか!」と言われ、それからバスに乗ること(生きがいのお参り)を辞めたそうです。
訪問看護における訪問リハビリテーションは”訪問”という文字がついているように在宅へ訪問し、その人がその人らしくある姿や暮らしを追求する関わりを行うことが目的です。
Aさんは在宅における日常生活は自立されておられます。だた、暮らしはどうでしょう。
毎日バスに乗り、自身が働いていたお寺へのお参りをするという生きがいの再獲得は未だ出来ていないままです。
リハビリテーションの目標によく「しっかりと歩けるようになる」というのが挙がることが多いです。実は、これは目的としては不十分で何のために歩ける必要があるのか、しっかりと歩くとは?大事なことは歩いてどこへ行くのか、何がしたいのか、そこが本当の目標になると思っています。
しっかり歩くのは、目的を達成するための手段です。
ご本人と相談の上で、この方の目標を「バスに乗り、生きがいにしていたお寺へのお参りを再開する」としました。
お寺に行くにあたって必要な要素、課題をピックアップしていきましょう!
何があるかな、バス停までも行けるだろうか、そっからやな
そうですね、バス停まで歩く、バスに乗る、バスを降りる、それからはどうですか?
バス停からお寺まではそこそこあるし、お寺も階段があるんです。
こう考えたらクリアせなあかん課題がようけある。ちょっと自信ないなぁ
ひとつひとつ確認しては課題を洗い出して、クリアしていきましょう(^_-)-☆
来週実際に現地に確認に行ってきますね!
こんな感じのやり取りで、目標達成に向けて課題になりそうな項目を一緒にピックアップしていきます。
次の訪問日までの下記の項目を確認していきます。
①玄関の段差の高さ
②家からバス停までの距離
③バス停からお寺までの距離
④バスの時刻表
⑤お寺内の段差や距離、椅子の高さ
⑥路線バスの段差の高さや入口の幅、椅子の高さ
⑥を確認するためにバス会社へ向かい、趣旨を説明しメジャー片手にバスを計測していると、、、
バス会社の従業員の方々が集まってきました。
これは何してるんですか?なんか気になることありました?
実は、バスを再び利用したい方がいらっしゃいまして、その乗り降りの確認や練習をするのに段差の計測や手すりの位置などを確認させてもらってます。
そうなんですね、そういう人があの路線におるんですねぇ。
覚えておきますわ。
この方だけじゃなくて、この地域の方々はバスが大事な移動手段です。このデータがあれば、
他の方にも活かせますので。これからもこういうケースは増えてくると思いますんで、
よろしくお願いいたします(^^)/
まずバス停までと、向こうのバス停からお寺の本堂までの距離を歩けるかの確認から。歩けることが確認出来たらあとはバスの段差とお寺の本堂前の段差を模した段差昇降の練習を行い、2カ月後に一度同行してお寺まで行くことになりました。
前もってバス会社には何時発のバスに乗るということを電話連絡し、当日を迎えました。バスに乗り込んだのが分かると公用車に乗り換え先回り🚙無事にお寺まで到着できたー(*^^)v
住職ともお話しできて、ご高齢の方でも安心して通える寺の環境について話せました。これもAさんから繋がったご縁です。感謝感謝♪Aさんもちょっと自信に繋がったみたいでした。
次の週Aさんから電話があり、ご夫婦だけでお寺まで行ってみようと思う!とのこと。バス会社への連絡は無しで突撃で行ってみる!と。ちょっと心配、うれしい大半で次回訪問時にどうだったか様子を聞く。
時間通りにバスが来た、乗り込もうとしたら、運転手さんが
ゆっくり乗ってもらっていいですよー
って言うてくれたんですって!!!!!最高にうれしかったです。
また、お寺の住職が机の椅子やトイレの手すりの設置をしてくれていたんだそうです!またまたうれしい!最高の気分でした。Aさんの目標は達成したわけです。
この経験で分かったこと。伝えたいこと。
- 在宅生活の自立がゴールでは無い
- 手段が目的とならないよう注意する
- 課題を細分化し、一つ一つ解決していく
- 当事者を通じて地域の様々な資源と繋がっていく
- 現状を伝え様々な方が同じ地域で暮らしているということに気づいてもらう
- 当事者を通じて地域の意識変容が起こる
自身が地域の資源と積極的につながっていくこと、当事者を通じた意識変容の繰り返しが優しい町へのきっかけづくりになるものと信じております。
地域リハビリテーションに関わる人たちには是非とも読んでいただき、参考にしていただければと思います。
リハビリテーションは「全人間的復権」です。この言葉は理学療法士や作業療法士、言語聴覚士だけのものではなく、その方がその方らしくある状況に向かうために関わっているご本人、周囲の人全てに関わる言葉であり、概念です。
皆でより良いリハビリテーションのきっかけを作っていきましょうね♪
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